成人向催眠小説 お悩み承ります2
彼女の名前は水品静香。十八歳、高校三年生。至って普通の女子高生だが、相
手に直接触れて念じると、トランス状態にすることが出来る能力があった。彼
女はそれを使って、学校の生徒の悩みを解決している。彼女はそれを、オシゴ
トと呼ぶ。
日頃、学校の生徒の悩みを解決している私だが、家族の悩みも解決することが
ある。
コン、コン……。
返事がない。
「入るよ〜?」
ガチャ……。
私は聡の部屋のドアを開けた。部屋の中は真っ暗だった。ドアの横にある蛍光
灯のスイッチを押して、初めてベッドで蒲団に包まって寝ている、聡を確認出
来た。
「ねえ、聡起きてる?」
そう私が訊いたあと、ゆっくりと蒲団の端から頭が出た。
「……なんだよ、なんか用?」
明らかに不機嫌そうな顔で聡は私を見た。
「どうしたの?」
「どうしたって……、何がさ?」
「いや、学校から帰って来てから、あんた様子が少し変だったからさ……」
「別に、何もないよ……」
「嘘!」
「嘘じゃないよ……」
「そう、だったらいいわよ!」
私は、ベッドで寝ている聡にズイズイと近づいた。
「ちょ、催眠術はやめ……!」
聡が言い終える前に、私は聡の頭に手を乗っけた。すると、聡は瞼を閉じて大
人しくなった。
私は聡の頭に手を乗せた状態で訊いてみた。
「……聡、何があったの?」
聡は小さな声で答えた。
「……女子に告白して……、振られた……」
私は少し、訊いてしまったことに後悔した。
「そう……だったんだ……」
……ごめん、ごめんね。家族とはいえ、話したくないこともあるよね。お姉ち
ゃんが悪かった。
私は、すぐに聡の催眠を解いた。
「……悪かった、ごめんね……」
聡は大きく溜息を吐いた。
「だから……、やめろって言おうとしたのに……」
私は自分が恥ずかしくなり、ドアに向かって走り出した。ドアを開けて出て行
こうとした時、聡に呼びとめられた。
「待って!」
私は体をとめるだけで、怖くて振り返ることが出来なかった。
「待って……、お願いがあるんだ……」
何のことだろう? 聡のお願いという言葉に、私は振り返った。
「お願いって?」
「俺に……、催眠術をかけてほしいんだ!」
「……どっ、どういうこと?」
意外な聡のお願いに、私は目をパチパチさせた。
「なんかこう、気分がよくなるような催眠をかけてほしいんだ」
「……そういうこと。それくらいお安い御用よ!」
私はベッドに座った聡の右手を握って、催眠術をかけた。
「いい、聡? あなたは目が覚めると、悩みが一切消えて、大きな幸福感に心
が満たされます。常に口元もにやけてしまうくらい、開放的で幸せな気分にな
ります。楽しくて、楽しくてしょうがなくなります。わかりましたね?」
「はい……」
「じゃあ、目を開けて」
聡の瞼がスッと上がった。
「……どう、気分は?」
「んふふ、んふふふ……、なんだかすごく……、楽しい気分……」
聡の顔はニコニコとした表情に変わり、ケラケラとベッドの上で笑いこけ始め
た。
「ふふふ……、姉ちゃん……、ふはは……、ありがとう……」
さっきとは別人のような笑顔の聡を見たことで、私は一安心し、部屋を後にし
た。
……一時間後。
「ちょっと、うるさいな〜」
私の部屋の隣にある聡の部屋から、まだクスクスと笑い声がする。
これは催眠を解かないといけないと思い、私は聡の部屋に向かった。
コン、コン……。
「入るね?」
ガチャ……。
「わっ、ちょっと! 何してんの!」
部屋に入ると、全裸でベッドに横になった弟が、目に入ってきた。
さっきまで着ていた服は床に脱ぎ散らかされ、姉が部屋に入って来たことにも
構わず、聡は仰向けに指を頭の上で組んだ状態で、満面の笑みを浮かべていた。
「どんな変態よ……」
聡の催眠を解くのに躊躇したが、催眠を解くことにした。
ゴツッ……!
ゲンコツで聡の頭を叩いた。
「……いてっ! な……、ちょ、恥ずかしい……! 向こう向いててよ、姉ち
ゃん!」
催眠のせいで恥ずかしい気持ちがなくなっていたらしく、大事な部分を見られ
ることにも抵抗がなくなっていたみたいだ。だけど、催眠を解いたことによっ
て羞恥心が蘇ってきたらしい。私が催眠を解くのを躊躇したのはその為だ。
「なんで服脱いでたの?」
私は部屋の壁を見ながら、後ろにいる聡に訊いた。
「なんだか……、開放的な気分で、つい脱いじゃって……」
最近、弟のアソコを見る機会が多い気がする。
「もうパンツ、穿いた?」
「……うん、とっくに。もういいよ」
私は振り返って言った。
「私のせいじゃないからね!」
「わかってるよ……」
服を着た聡が、照れ臭そうに右手の人指し指で、鼻の頭を掻きながら言った。
そして、また照れながら続けた。
「……ホントにありがとう。姉ちゃんが催眠術かけてくれて、ホントに助かっ
た」
「あらそう……。お役に立てて光栄だわ」
弟にお礼を言われた。こんなことは久々だった。
私は気分がよくなってしまい、ついこんなことをしてあげたくなった。
「もう寝るの?」
「うん……」
「そう、じゃあ気持ちよく眠れる催眠をかけてあげる!」
「えっ? もう催眠術は……」
「大丈夫! ただ気持ちよく眠れて、朝も気持ちよく起きられるだけだから!
ほらほら、蒲団に入って!」
聡は嫌がりながらも、渋々と承諾した。
私は聡の頭に手を置いた。
「私が今からおやすみなさいと言うと、とても強い睡魔が襲ってきて、頭がぼー
っとしだし、気持ちよく眠ってしまいます。そして朝、目覚し時計が鳴ると、
爽快な気分で目覚めることが出来ます。わかりましたね?」
「はい……」
パチンッ……。
私は指を鳴らした。
「うん、これで大丈夫」
「……わかった。おやすみ、姉ちゃん。あ、そうだ……!」
「おやすみなさい、聡……」
聡が何か言おうとしていたが、みるみる聡の瞼が閉じていき、たちまち塞がっ
てしまった。そして、すぅーすぅーと寝息をたてて眠ってしまった。
「おやすみね……」
翌朝、私はリビングで朝食を食べていた。すると、お母さんに聡がまだ起きて
来ないから起こしてきてほしいと頼まれた。
しょうがない弟だなと思いながら、私は聡の部屋にいった。
「あ、聡まだ寝てる! 早く起きなよ、学校に遅刻するよ! ねえ、聡!」
身体を手で揺さぶっても起きる気配がない。聡は気持ちよさそうに寝ている。
「あれっ、おっかしいな〜? 気分爽快で目が覚める筈なんだけどなー」
おかしい。目覚し時計が鳴ると気分爽快で……、あっ!
私は慌てて目覚まし時計を手に取り、鳴らした。
ピピピピピピピ……。
「う〜ん、よく寝た〜って、おわっ! 姉ちゃんなんでいるの!」
「ごめ〜ん! 目覚し時計の音で催眠が解けるようにしてたんだけど、目覚ま
しのスイッチ入れとくの忘れてた!」
「……あっ、そうだよ! 昨日、それを言おうとしたんだけど、眠くなって…
…」
「はははは……、ごめんね。あと、ごめんね……」
「……ん? あと、ごめんねって?」
「時計見て」
「……時計? あっ! もうこんな時間! 朝ご飯食べられないじゃん!」
「ごめん! 急いで着替えてね! んじゃ、お姉ちゃんもう行くから!」
「も〜、だから嫌だったんだよ!」
聡の文句を背中で訊き、私は笑いをこらえながら家を出た。
スゴ腕催眠術師、水品静香。彼女のオシゴトは、まだまだ続く。